ニューロダイバーシティ

ニューロダイバーシティへの期待

ニューロダイバーシティとは何か
ニューロダイバーシティとは、「Neuro(脳・神経)」と「Diversity(多様性)」のふたつの言葉の組み合わせであり、人々の特性の違いを「多様性」と捉え、特に脳や神経のに由来する個人レベルでのさまざまな違いを、強みとして社会の中で活かしていこうという考えです。

ニューロダイバーシティの考え方
ニューロダイバーシティでは、発達障害において生じる様々な現象を、周囲と違うからといって能力の不足や優劣で評価するのではなく、その違いは「人間のゲノムの自然で正常な変異」として捉えます。

ニューロダイバーシティの推進
ニューロダイバーシティでは、発達障害によりこれまで採用されなかった人材に対して、デジタル分野への親和性の高さを主体として、生産性・品質向上・イノベーションへの貢献に注目されています。特に、海外企業では新たな評価軸での採用が進み多くの成果が上がり、国内でもその動きが高まりつつあります。


1.「ニューロダイバーシティ」セミナーと座談会

産業ソーシャルワーカー協会での取り組み

一般的な障害者雇用促進という枠を超え、働く個々の人への大きな価値転換をもたらすテーマとして、産業ソーシャルワーカー協会のセミナーで「ニューロダイバーシティ」を取り上げました。

代表理事の皆月みゆきを座長に、以下の専門家を迎え、以下について議論を進めました。

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◆テーマ
ニューロダイバーシティへの期待

①ニューロダイバーシティは何と捉えるか
②この考えが広まることで、これからの世の中に何を期待できるか
③障害者だけでなく、一般採用として働く個々の人に何をもたらすか

◆登壇専門家

柏山 智子
中学校養護教諭
公認心理師、学校心理士、養護教諭

中山和子
国立研究所「集合型の雇用」雇用管理担当者
精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師

本村隆浩
児童心理治療施設相談員
公認心理師、社会福祉士

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2.登壇者の声

①ニューロダイバーシティは何と捉えるか
②この考えが広まることで、これからの世の中に何を期待できるか
③障害者だけでなく、一般採用として働く個々の人に何をもたらすか

◆柏山 智子
中学校養護教諭
公認心理師、学校心理士、養護教諭

最初の教え子に孫がいるほど長く学校教育に関わってきた中で、学校教育から見てみた。レポートを読み光を感じたが、やはり一方で問題の根は深いと思う。

発達障害グレーゾーンの方々は、一般的にマネジメントしにくい人と言われている。その背景として、義務教育の中でどんな風に支援されて社会に出ているかを知る必要がある。特別支援学級は2000年からスタートして、当時の生徒の困り感をサポートしたが、そこに漏れているのがグレーゾーンの人たちなのかもしれない。

学校現場では、発達障害と診断されている生徒は守られて保障されているとも言える。
パニックを起こしたり、体調が優れない時は校内で体を休めることも可能だし、毎日の様子に合わせて特別支援学級に行ったり、交流という目的で通常学級にも自由に行ける。
また、特別支援学級に在籍する生徒は、自立を学ぶ授業があり、助けを求めたり自立していくためのスキルなど必要なことを学べる。
一方、グレーゾーンというか、障害を診断されていない生徒は学びにくさや生きにくさを感じていても、ごく普通に通常学級に入っている。地方では、障害への偏見も強く親や地域が認めたがらない場合もある。

そういう生徒が通常学級で学ぶと、他の生徒と同じレベルの同じ行動が求められる。同じことができないのに同じを強要され、できないと優劣がつけられる居心地の悪さから、二次障害も生まれやすく、人や物とのトラブルも増えやすい。
また、その生徒たちは、困っていてもサポート求める方法を学んでおらず、声を上げることができない。何が困っているかを言えるスキルを学んでいないために、助けてと言う具体的な方法がわからない。場合によっては、自分が何に困っているかすらわからない。こうした流れは、企業に一般採用で就職した後もそのまま続いていると考える。

学習能力が高い人はニューロダイバーシティの名の下で採用が可能かもしれないが、実は、一般採用の中に、こうしたことが担保されずに働きづらさを感じている人が多いということが課題ではないか。

ただ、ニューロダイバーシティへの周囲の認知が広がり、そうした特性の人たちの活動の幅が広がることを期待している。地域性や家庭により障害者への偏見も根強くある中で、たとえ一部の人でも、「活躍できる人、タレント性がある人」と認められていけば、社会に活躍する場があると期待されて、憧れられる存在にもなりうる。

一般採用枠の人も、弱点を自分が活かせる場ができる、今まで出来なかったのに仕事で肯定されるようになる、部署が変われば活躍できる可能性があるなどという考えが広まることで、自身に認知の歪みがあることを周囲に表明できるようになる。そうした社内環境の整備ができる道筋になればいいと思っている。

◆中山和子
国立研究所「集合型の雇用」雇用管理担当者
精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師

現在は、国立の研究所で集合型の雇用管理を担当している。
精神障害の方々には、法定雇用率が算定される前から関わってきているが、このニューロダイバーシティに関しては、発達障害だけでなく精神障害全体に日の目が当たったような気がしている。
言葉を恐れずに言えば、今までそこに居たのに居なかったとされてきたかのような人に対して、そこに居るのだと言われはじめたようにすら思う。権利の復権とも言える。

ただし、生産性において、自社内でのパフォーマンスを評価するのはなかなか難しい。インターンシップの中で適性を見ることも一つだろうが、今の日本では新卒しかインターンシップに対応していないので難しいだろうか。

ニューロダイバーシティは、ゼロリスクを求め新しい挑戦をしない企業に、風穴をあける取り組みであるが、果たして先進企業以外の企業が挑戦しようとするかどうか。

ここには、失敗を許すどころか積極的に失敗させる企業風土が大事であり、それは、もっと手前の教育や福祉のあり方から変えていく必要が出る。また、そこでの心理的安全をどう担保するかも大きな課題。障害者雇用をしている会社はワークエンゲージメントが高いという先行事例があるが、企業はワークエンゲージメントが高いだけでは乗る気にならないためだ。

ただ、経産省が企業風土の中にこうした考えが大変重要と言ってくれるのはいいことだと思う。
経産省のレポートの12ページでも言っている「謙虚なリーダーシップ」は重要なファクター。こういう風なリーダーシップが取れる人をどう人材育成できるのかも注目したい。日本の企業で、ダイバーシティに関わった人が担う方がいい。そのダイバーシティへの指向性が大事となる。

◆本村隆浩
児童心理治療施設相談員
公認心理師、社会福祉士

都内の心身障害者福祉センターで長く相談支援専門員をした後、現在は児童心理のファミリーソーシャルワーカーをしている。対象者は、心に傷がある児童であり、その中には発達障害児もいる。

これまでの業務で、就労移行支援事業所との関わりも深い。就労が続く人と続かない人の違いは、自分が困った時に困ったと言えるか否かである。発達障害は特に自身の気持ちを周囲に言うことが難しい。ここが苦手なものだと考えて、困ったと言いやすい環境を作ることが大事。

海外は早い段階から発達障害に注目して、活躍している人が多い。作業の正確さだけでなく、発想の新しさという面でも活躍している人もいる。
ただ、発達障害があると、過集中による仕事の速さや正確さ、細かなものを見つけるスキルなど、特別とも言える能力を持っていることもあるが、彼らは決してスーパーマンなのではない。
そのことで他の人以上に疲れてしまったり、感覚的にとても過敏になったりすることがある。能力が突出していることと、その真逆の課題があることを理解しなければならない。

どうしたら働きやすいかは、その人を知ること理解すること。個々へのアセスメントが大事。
その人の理解者がいることは会社にとっても必要なことであり、障害がどうこうではなく、その人がどうなのか、何が得意で何が苦手で、どうしたら働きやすいかを、個別に見て知って行くことが何よりも重要。発達障害である特定の能力が高いと言っても、得意と不得意にはそれぞれ違いがあるという認識をもってほしい。

障害者に関わる専門家としては、以下の4種類を個別に見ることを重視している。
・学力  
・情緒(愛着 回避型、不安型、回避不安型など)  
・認知力  
・障害程度

このように、障害程度だけでなく、全体的にその人がどういう人かを見て働きやすい環境を作っていくのだが、それを見るのが会社の人だけでは難しい場合は、ジョブコーチの制度もある。
例えば東京都には就労移行センターがあり、フォローアップサービスとして各センターの職員がフォローについてくれる。必要に応じて、そういう機関を利用するのもいいのかなと思う。

筑波大学のホームページにある、ニューロダイバーシティへの取り組みがわかりやすいと思った。
実際には、赤やグレーの人よりも青の人の方が生きにくさを感じているのかもしれない。そこをどうしていくか。課題は尽きない。


■参考資料(経済産業省)
イノベーション創出加速のためのデジタル分野における「ニューロダイバーシティ」の取組可能性に関する調査
報告書概要版
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversity20212.pdf
▶調査結果レポート
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/neurodiversity/neurodiversityreport2021.pdf