産業医科大学産業衛生教授

産業ソーシャルワーカーへの期待
労働者と生活者の両面から予防的にアドバイスする役割として

産業医科大学産業衛生教授
浜口伝博

「労働衛生活動」は、労働現場に存在する有害要因(粉塵、鉛、化学物質、重筋労働等)から労働者の安全 と健康を守ることを目的としています。現在は1972年施行の労働安全衛生法が基幹法となり、関連法令を適 応させながら有害業務がこまかに管理されています。しかし同法施行からすでに半世紀近くがたち、我が国 の産業構造は大きく変化しました。

その代表的な変化は第3次産業への労働人口のシフトです。すでに7割超ともなった第3次産業人口はこれか らも増大していくことでしょう、また生産システムもさらに自動化が進み従来型の有害業務はますます減っ ていくと思われます。職場から有害要因を排除することを目的とした「労働衛生活動」は、いまや軽少と なった有害要因と労働者自身の生活習慣との健康的な整合を図っていく「産業保健活動」へと変容してきま した。

職場の産業保健専門職(産業医、産業看護職、衛生管理者等)は、法令順守をするとともに独自の保健活動 を展開中です。

組織や集団を動かす一方で、健康診断結果を活用しながら労働者個人に対しても保健指導を行っていますが、 個人へのアプローチにおいては、労働者としての側面以外に、生活者としての側面についても十分な配慮が 必要です。ところが時間的場所的な制限もあり、また労働者側の遠慮意識もあることから、労働者側の事情 をくみ取った保健指導になれていないのが実情です。

労働者の個人背景や家族要因、地域社会状況なども含めた話題を拾いながらの相談こそ労働者の求めるもの でしょう。その意味で、労働者と生活者の両面の間伱を埋めながら相談にのれるのは産業ソーシャルワーカー の方が適しているかもしれません。

労働者にとっても「解決のための行動の第1歩を踏み出すまで伴走する相談の専門家」がいてくれることは 心強い限りです。これからは職場の保健活動として、がんの治療と就労との両立や、出産後も仕事をつづけ る女性への支援、親の介護で苦労している方々への支援も含まれてきます。仕事の悩みとプライベートの悩 みについて「予防的」にアドバイスを続けてくれる産業ソーシャルワーカーの学びが望まれています。