ソーシャルワークの地平を切り拓く産業ソーシャルワーカー
愛知県立大学名誉教授
須藤八千代
イギリスのソーシャルワーク研究者ニール・ソンプソンは「ソーシャルワークとはソーシャルワーカーがやっていることだ」と大胆に言い放つ。また「ソーシャルワークの究極的な定義はない」とも言う。一見乱暴にも思えるがソーシャルワークの本質を言い当てている。
なぜならソーシャルワークは変化し偶発的な出来事の積み重ねでもあるソーシャルなものを相手にしていく仕事だからである。定義し限定して自らの専門的地位や役割に固執する専門職ではない。自分の利益より他者の喜びを、自分の評価より問題の解決を優先する仕事である。
ソーシャルワークはイギリスの産業革命の時代とともに誕生した。すなわち社会の近代化がもたらした人びとの困難や社会問題が生み出した職業である。日本では早い時期に病院で医療ソーシャルワーカーが専門職モデルを確立した。病院の片隅にいながら患者の最大の味方だった。なかでも日本の精神病院や精神医療の改革を担ったのはソーシャルワーカーである。人権や尊厳を奪われた患者を救い出す役割を果たした。
このようにソーシャルワーカーは今、社会の中で解決を求められる問題に柔軟に取り組む仕事である。それによって社会もソーシャルワーカー自身も発展し、成長し、変化する。常に高いアンテナをもって新しい領域を開拓する専門職でなければならない。
その意味では産業ソーシャルワーカーが登場するのは少し遅きに逸したかもしれない。例えば、すでにかなり前にスクールカウンセラーとは別の役割として、スクールソーシャルワーカーの必要性が認められ学校や地域で働いている。カウンセリングという個人の内面に限定された支援だけでなく、環境や状況全体に関与することで解決を図るソーシャルワークが登場したことで、子どもへの支援の幅は大きく広がった。
病院や学校、地域、家族領域だけでなく、社会の根幹を支える会社、そこで働く人たちへのソーシャルワークとなる産業領域のソーシャルワークがようやく日本でスタートした。働く時間、働く場、そこで生きる時間は、その人の一日のなかで一番「生きのいい」大切な時間である。また人はメビウスの輪のように仕事とそれ以外の私的な時間をつないで生活している。
産業ソーシャルワーカーは、個人と社会の交点に立つソーシャルワーク本来の役割を担い、ソーシャルワークの新たな地平を切り拓くと確信している。