帝京平成大学大学院臨床心理学研究科教授

ワークライフの多様化の時代における産業ソーシャルワーカーへの期待

帝京平成大学大学院
                             臨床心理学研究科教授
                                   馬場洋介

                    
現在、企業で働く個人は、AIの浸透等による急激なIT化の進展、ビジネスのグローバル化、産業構造の急速な変化等の外部環境の変化、および、働き方や雇用形態の多様化、さらには新型コロナウィルスの感染拡大による社会環境の急激な変化等に遭遇し、先行きが不透明な時代の中、多様な不安やストレスを抱えています。

また、総務省労働力調査によると、被雇用者に占める非正規職員・従業員の割合は30%台後半で、非正規という不安定な雇用形態で働く個人の割合は比較的高い状況です。そして、厚生労働省の「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」おいて、現在の自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者は約6割に達し、ストレスと感じている事柄は「仕事の質・量」と答える人の比率が高く、マルチタスク化や長時間労働等による職場環境の悪化が想定されます。また、厚生労働省の「個別労働紛争解決制度の施行状況」において、総合労働相談は100万件を超え、高止まりの状況が続き、相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が多くなっています。いじめ、嫌がらせ等のパワハラ問題については、2019年5月、改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)が成立し、改正法は大企業では2020年6月から施行されました。さらに、セクシャル・マイノリティの個人への対応やがん等の疾病を抱えた個人への仕事と医療の両立支援等、ダイバーシティ&インクルージョンに対する組織への対策も課題です。

以上、概観したように、今後、日本企業で働く個人を取り巻く環境の変化は一層激しくなり、ストレスや不安を抱え込む個人が増加することが想定されます。今後のアフターコロナの時代において、テレワーク、副業等の働き方の多様化、仕事と治療の両立、介護と仕事の両立等、ワークライフの多様化に纏わる課題に対して、複数の視点から統合的、かつ、具体的なコンサルテーションやアドバイス等で、予防的に支援できる産業ソーシャルワーカーの存在はとても重要になってくると思われます。そして、Lynda Grattonが提唱する「人生100年時代」においては、働く個人がワークライフの節目節目で柔軟に対応し、自分らしいワークライフを実現できるように支援できる産業ソーシャルワーカーは、個人や組織にとって必要不可欠な存在になっていくと思われます。

今後、産業ソーシャルワーカーとして活動される人が増えること、そして、企業、自治体等、様々な組織において産業ソーシャルワーカーを活用する機会が増えること、その結果、様々な組織で働く多くの方々が、産業ソーシャルワーカーの支援を受けられる状況が実現されることを期待しています。